映画「そして父になる」

   

是枝裕和監督の「そして父になる」先行上映を見てきました。第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し有名になったので注目している方も多い作品かと思います。完成披露試写会にハズれた私も一般公開を楽しみにしていました。

ある日、エリートビジネスマンの野々宮良多(福山雅治)は、病院での子供の取り違いで6年間育ててきた子どもが自分の子どもでなかったことを知る。血のつながりと、父と子として過ごしてきた時間。その間で揺れる夫であり息子であり、そして父である男の葛藤と成長を描いた作品。



見終わった感想は、「じわーっとした感動」です。私は是枝監督の作品をときどき厳しかったりきつかったり感じるのですが、この作品は扱っているテーマ自体は重いものの、全体的にマイルドな印象でした。だから安心して最後まで見られた一方、どこか物足りなさも感じ、一体私が何を求めてたのかを考えること自体が興味深い後味でした。

血のつながりと育ててきた時間のどちらが大切か、そこで揺れる野々宮夫妻の気持ちの描写がとても丁寧です。奥さんの気持ちは比較的わかりやすく共感しやすい。一方で良多の方は複雑です。エリートビジネスマンで仕事に没頭し、子どもとの関係も深いとは言えなかった良多。自分自身も複雑な過去があり、もう一方の夫妻ほど家族の在り方がわかりやすくないのです。その辺がこの作品の深みであり、見所なのかなぁと。

画面はとても優しい空気感が漂っています。何気ない風景の映像に、それぞれの気持ちが描写されていることに時々気づきました。子どものかわいさや無邪気さは是枝監督の十八番なのでもうなにも言うことなく堪能させてもらいました。

役者さんですが、福山雅治が残念ながら他の役者陣に及ばず浮いているような印象でした。といいますか、他の皆さんの演技が素晴らしいです。ベテラン陣はもちろん、それぞれの夫婦の妻を演じた尾野真千子と真木よう子が特に光っていました。どちらも母親役を見事に演じていました。尾野真千子の優しく繊細な母親像は切なかったし、真木よう子の肝っ玉母さんぶりは見ていて安心しました。リリーフランキーの陽気で愛情あふれる父親像もよかったです。福山雅治にとってある意味、酷な状況だったのではないかと…。特にクライマックスは…ちょっと残念でした。いい脚本だったのになぁ…。

万人受けするかどうか、興行的にどうなのかとかは正直なところ微妙な気がしましたが、またぽつりといい作品が生まれたんだなと、そんな印象が残りました。

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