本「ベイジン」(上・下)
真山仁の「ベイジン」を読みました。真山仁は私がのめりこんだ「ハゲタカ」シリーズの作者です。
この人の小説は…本当に面白い…!良質なハリウッド映画を見ているようなスリルやわくわく感を、最初から最後まで楽しめました。というか、ハリウッドで映画化してほしい。扱っているテーマや内容が映画化するには微妙かもしれませんが…。
「ハゲタカ」は金融や経済の世界を舞台にした経済小説でしたが、「ベイジン」は中国の原子力発電所の建設をテーマにした、社会派小説でした。物語はフィクションですが、北京オリンピックを題材に扱うなど、実際の時代背景を織り込んだ作品です。さらに中国と原発…というテーマがこれまた特殊なようで、意外と新しくて私たちの生活に関わりの深いテーマだということに読んでいるうちに気づきます。
物語は鄧という中国人と、田嶋という日本人技術者の二人が主人公です。鄧は原子力発電所の運開の責任を担った役人で、田嶋は原発の技術者としてそこに派遣される日本人です。お互いの立場をもって強く反発しあう二人なのですが、やがてかけがえのない仲間として絆を深めていきます。物語は原発建設計画から始まり、北京オリンピックの原発の運開の日に向けてクライマックスを迎えます。
この物語の魅力はいくつかあるのですが、まずすごいなぁと思うのは取材力でしょうか。中国についても原発についても私は何も知らないまったくの素人ですが、物語全体がもつそれらについての情報量には圧倒されます。中国の社会の歴史から、今の中国の政治状況についてわかりやすく描写されています。また、原発の技術的な話についても、きちんと物語が進むように緻密な取材がされているように感じました。
あとキャラクターの力強さが魅力的。鄧も田嶋もかっこいいし、脇を固める門田、大町、朱、安、黄などのサブキャラクターもみんなイケてる。(朱からはハゲタカの豆タンク前嶋ちゃんを思い出しました。前嶋ちゃん好きだった。)鄧と黄の友情、田嶋と門田のプロフェッショナルとしての絆…若干完璧すぎてマンガっぽい印象は受けますが…。
そして、ダイナミックな描写や物語の展開です。事故などの描写が、すごい迫力で想像ができました。そこが映像で見てみたいなぁと思わされる理由です。豪雪のシーンや、クライマックスなど、(ネタばれするので細かく書けませんが、)本当にはらはら手に汗を握り、そして感動して泣いたり。本当に迫力ある映像をスクリーンの前で見ているかのように物語を楽しめました。
逆に私にとって足りないと感じたのは人物描写の繊細さです。これは好みかとも思うのですが、どうもキャラクターが大味な感じがして、面白みは感じるものの深みを感じにくいです。勧善懲悪もはっきりしてるし。それは「ハゲタカ」も同じで、NHKでドラマ化や映画化されたとき、小説に比べて鷲津や芝野のキャラクターに厚みがあったのが良かったと思いました。
また、肝心なラストシーンが仰天の中途半端ぶりです。始末がつかなかったことが山積だと思うのは私だけでしょうか? …これは続編を期待してもいいと解釈すれば納得するけど(笑)
久しぶりに面白くて本を開くのが楽しみになった作品でした。真山仁の本は他の作品も読んでみたいです。