映画「歩いても 歩いても」
是枝裕和監督最新作「歩いても 歩いても」を観てきました。ロードショーから一週間経ちましたが、土曜日の朝一の回から大盛況。お客さんはシニアのご夫婦が多かったです。
横山家では、長男の命日に家族が集まる。引退した開業医の父、なにかと世話を焼きたがる母。そして次男の良多一家と良多の姉のちなみ一家、それぞれの家族が集まり、にぎやかながらそれぞれの思いが交錯する一日を描いた映画。
以下、感想です。ネタバレもありますが、この映画は筋は重要ではないので、観てない方が読んでもOKかと。
じんわりと心にしみる映画でした。家族の掛け合い一つ一つに、何かとても懐かしさや共感を覚え、やがて心の奥のほうから涙が流れ出る不思議で優しくて、そして生々しい作品です。
メインは、昔気質で医者という仕事に高いプライドを持つ父と、医者にならず、しかも今は失業中の良多との関係が描かれています。医者になった長男と比べられる良多は、固定観念を押し付ける父を受け入れられない。たった一日と一泊の時間の中で、些細な口論を繰り返す二人。そんな良多も、急患を助けられずにうろうろする父の後姿を見て、心を一歩近づける姿が印象的です。
また、メインはこの二人の関係なのですが、登場人物すべての関係が、小さな会話一つ一つに丁寧に描かれています。母と娘、母と息子の関係。母と嫁、父と嫁の連れ子の関係など・・・。母は、子供がいくつになっても母親は母親である、という情景がとてもよく描写されていて、思わず誰でも微笑んだり、気恥ずかしい気持ちになると思いました。
脚本が面白く、最初から最後までくすくすと笑いが止まらないにぎやかな光景が続きます。すべての会話がとてもリアルで、笑っていてもどこかドキッとするようなセリフがあったり、静かなシーンでは言葉がじわっと心にしみます。この映画は、全体として起承転結が大きくあるわけではなく、一つ一つの細かなシーンが全体として「風景」を作っているような印象でした。
画面も美しいです。特に前半に料理のシーンが出てくるのですが、色や人の動きが美しい。あと、子供たちが花に手を伸ばすシーンもきれいだったな・・・。家の中や、空、町の風景など、素朴で親しみやすく、とてもあたたかい絵です。
なにか、感想がとりとめのないものになってしまいましたが、この映画自体が、全体をゆるくしばった「どこにでもありそうな家族の風景」を描いているのです。それがリアルで、美しくて、優しくて、生々しいから、ラストのシーンは本当になんでもない情景なのですが、体の奥のほうから熱い涙がつーっと出てきました。
みんな、こんな感じで生きているよね。という風景を見ながら、どこか心に残る絵や言葉や表情に出会えます。
良い映画でした。