映画「12人の怒れる男」(原題「12」)
ニキータ・ミハルコフ監督最新作「12人の怒れる男」を観てきました。有名な「12 Angry Men」のリメイクです。原題は「12」(twelve)なので、邦題が意図的に同じものになったようです。
「12 Angry Men」は中学か高校生の頃、学校の授業で見ました。モノクロの退屈な映画と思いきや、筋は明確だし、ラストまでの展開が爽快で、人間の心理の危うさが強烈に印象に残った作品でした。
あの映画が半世紀たってロシアでリメイクされることで、一体何がどう味付けされて変わるのか。それにも興味があったし、何よりもニキータ・ミハルコフというロシアブランドに惹かれて観てきました。
感想は、結論から言うと、かなりぐっときました。オススメです。
筋は大体「12 Angry Men」と同じです。12の陪審員の中で、たった一人が被疑者の無罪を主張し、議論の中で真実を見出そうとしながら他の陪審員の心も変わっていくというもの。ただし設定は、社会的背景を大きく現代ロシアにそったものに塗り替えています。被疑者の青年はチェチェンの出身であり、被害者は内戦孤児の彼を養子にした義父という設定です。
正直、大半は退屈でした。12人の陪審員のおっさんたちが猛烈に個性的で面白くて笑えるシーンも多いのですが、いかんせん、肝心の「心の変化」を描写する部分が妙に情緒的。「12 Angry Men」はもう少しロジカルな印象だったので、こちらの流れはよく理解できない空気がありました。あと、ナイフが苦手なので、議論中ナイフをやたら振り回されるのが個人的にキツかったです…。
しかし、クライマックスに強烈などんでん返しが。
退屈なまま、これで終わるのかな~と思っていたところ、最後の最後で「12 Angry Men」とは異なる結論に至るのです。しかも、そこで初めてそれまで張られていた伏線がきれいに編みあがる。チェチェン紛争が生んだ悲劇。人のエゴイズムと愛情。過去と現在が錯綜する映像と、民族的な音楽にのって、いろんな感情が溢れ出て涙が出て、そして眩暈がしました。
社会派と思いきや、結構情緒的なこの作品。「12 Angry Men」のリメイクですが、「12 Angry Men」ではありません。この作品はロシアで生まれた「12」なのです。
それにしてもニキータ・ミハルコフがカッコいい!自分が監督する作品であんなにカッコいい役をやるなんてちょっとナルシスト?と思いましたが、演技の重厚さが痺れるくらいカッコよかったです。
そんなわけで、振り返るとおっさんばかりで色気のない作品でしたが(笑)、笑ってぐっときて、しばらく考え込むような作品が好きな方には特にオススメの作品でした。