映画「トウキョウソナタ」

   

映画「トウキョウソナタ」を観てきました。去年、絶対観ようと思ってたのに、引越しのごたごたの時期とぶつかったために観られなかった作品。ユナイテッドシネマ豊洲がアンコール上映をしてくれました。ありがたい~。すきすき、ユナイテッドシネマ豊洲!

この映画が初夏に話題になったのはカンヌで「ある視点」部門の審査員賞を受賞したから。カンヌの受賞作品って、派手さはないけど深みがある作品が多くて、好きになる作品が多いです。そんな理由もあってぜひ観たかった。

これは一見普通の家族の話。会社員の父に専業主婦の母、大学生と小学生の息子。普通に暮らしていたつもりなのに、いつの間にかお互いを見失い、少しずつ壊れかけていた一家。それが父親のリストラをキッカケに、それぞれの思いが一気にそれぞれの思う方向に加速していく。ばらばらになって、それでも希望をつないでいく家族の話です。

以下、ネタばれ含む感想。


まずネガティブな全体の印象を書いちゃうと、心理描写が足りなくて映画に入り込めなかったのが残念でした。それぞれの気持ちが理解できない。うぅぬ。この映画のテーマはそこが重要なのに・・・。

父親がなぜあそこまで頑固なのか。母親が何に失望しているのか。お兄ちゃんが何を考えているのか。ボクはなんで無賃乗車なんぞしようとしたのか・・・。私は誰の気持ちもよくわからなくて、それでいてみんながばらばらになっていくもんだから困惑しました。

母親に起きた事件もかなり唐突で、夜更けと夜明けのシーンは美しかったものの、その前後が突飛で入り込めなかったのが残念。役所広司はいい役者だけど、この映画では演技が激しすぎて浮いておりました・・・。ちなみに役者では香川照之と井之脇海くんが良かったと思います。

衝撃的で興味深かったのは父親のリストラにまつわる描写。父親は一流企業の総務部課長だったのですが、ある日辞職を促され、失業者になります。(ちなみに会社はTANITA。よく社名使わせてくれたよなぁ。)そしてそれを家族に隠し、失業仲間と仕事を探しつつ、公園の炊き出しの列に並ぶような日々を過ごします。

これが撮影されたころは今ほど経済状況は悪くなかったはず。さらに、上映時も、非正規社員のリストラは始まっていたとはいえ、まだ正社員雇用への危機感は薄かったはず。それが、正社員の雇用も危ぶまれている今見ると、かなり生々しくて戦々恐々とします。

行く職場がなく公園に行くと、同じような境遇のスーツを着たサラリーマンがたくさんいます。炊き出しの列にもスーツ姿の人が何人も混じっています。ハローワークも長蛇の列。職場に行く振りをしている失業仲間の家に行き、その演出を手伝う父親。・・・誇張されている点もあると思いますが、まったくウソとも思えないリアリティがありました。追い詰められた父親がクライマックスで苦しそうにつぶやく「やり直したい」という言葉にも迫力があり、胸に迫るものがありました。

この映画の意図するところではないと思いますが、私はこれらの描写を見ていてかなりの恐怖感と緊張感を覚えました。自分の雇用や未来が何かに守られているという錯覚を起こしてる場合じゃないと・・・。

うーん。そんなわけで全体としてはどうかな、と思う作品でしたが、父親に起きたエピソードだけでも観て良かったと思います。

また、ラストシーンのドビュッシーが美しいです。正直そのシーンまで映画に入り込めなかったので、狙った感を感じてしまいましたが、それでも美しく仕上がっていたと思います。

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